Jリーグの経営学
このブログでは、「Jリーグの経営学」というカテゴリで、経営の視点からJリーグの抱える問題、その取り組みについて、不定期に取り上げています。
過去のエントリは、Jリーグの経営学 2015年からのJリーグはどうなる?、横浜マリノスにみるJリーグの経営学あたりです。そうした問題意識のなかで、「Jリーグ再建計画」を読みました。Jリーグの現状、これからの取り組み、についてきちんと触れており、良い本だと思います。
Jリーグを取り巻く環境
やはり、誰もが共通認識として挙げるのは、現状のJリーグを取り巻く環境は厳しいこと。
Jリーグの収入構造は、1.Jリーグ事務局と2.各J1クラブに分けることができる。Jリーグ事務局での売上は、放映権料と協賛金である。Jリーグ事務局の全収入約120億円のうち、100億円近くをこの2つが占める構造だ。(p14)
という収益構造のなかで、1994年のJリーグバブルでは66回(全264試合)をピークとして現在は7回(全306試合)、しかも、民放はなく、NHKだけ。J1,J2全試合をカバーしているスカパー!のJリーグビジネスも赤字といわれており、放映権料は現在の50億円を維持することすら危ぶまれている状況。
協賛金についても同様で、博報堂が企業向けに広告枠を販売するものの、広告枠が完売することなく、毎年12枠のうち、4~5枠売れ残るという。もちろん、それは、博報堂の持ち出しになると指摘する(p19)。
いってみれば、現状のJリーグは、1.有力選手はヨーロッパにいってしまいJリーグを観なくなった → 2.人々のJリーグへの興味が薄れてきているので、広告主はあえてJリーグに協賛金を払わない、テレビ局もJリーグを放送しても視聴率が取れるとは限らない → 3.Jリーグ事務局、クラブの収益が減少する、というネガティブスパイラルに陥っている。
自分が知っている会社でも、こういうネガティブスパイラルに陥ると結構厳しい。そして、何もしないと、どんどんネガティブスパイラルが加速し、会社であれば事業清算、倒産、売却なんてことがよくある。
Jリーグの次の一手
では、どうやってこのネガティブスパイラルから脱するか?
企業にとって、キャッシュ(お金)がないと生きていけないように、Jリーグも同様。そして、現状のリーグ方式(1リーグ制)のまま行けば、2014年からJリーグ本体に最大13億円の減収予測となるという。そこで、導入したのが、ポストシーズン制の導入。
ポストシーズン制は、簡単にいえば、1年を2シーズンに分けて、それぞれのチャンピオンがポストシーズンに優勝争いをする制度、詳細はこちら。
2015年、この制度の導入で10億円程度の増収を確保できるという。
このポストシーズン制でJリーグが復活できるか、といえば、結局のところ、試合数を増やして、増収を作っているので、本質的な解決策ではないと思う。むしろ、願い目で見て、どうJリーグを活性化する戦略をつくるか?
その一つが、やはり、アジア戦略。
たとえば、イギリスのプレミアリーグの場合、イギリス国内での放送権契約は2013-2014シーズンで30億1800万ポンド(1200億円)、国外では別の契約となるも、その全体の6割を占めるのはアジアからの売上。他の欧州リーグとの契約を加えると、アジアがヨーロッパサッカーに支払う放映権料は総額で600億円といわれる。(p86) プレミアリーグもアジアマネーを狙っていて、マレーシアやタイのゴールデンタイムに合わせてプレミアリーグのキックオフをしていると。
香川のように日本からプレミアリーグにいくと、プレミアリーグを観る日本人が増えるように、アジアからJリーグに選手を誘致すればその国でJリーグを観る人が増える。ただし、難しいのは、サッカーはチームプレーなので、ビジネスだけで考えてアジア選手を獲得しても、起用するかどうかは監督次第。無理にアジア選手を獲得しても、”ビジネス先行”になってしまう可能性も否定できないと(p96)
Jリーグ時代の運営もさることながら、今後厳しさを増すのはクラブライセンス制度。クラブライセンス制度については、こちらの通り。
で、どうするか?
自分も結構いろいろな会社の経営に携わったけど、結論から言うと、Jリーグ全体あるいは各クラブ、をきちんと利益がだせる成長路線に持って行くのはかなり難易度が高いと思う。たとえば、企業の場合は、売上が落ちる局面では、固定費(売上とは関係なく発生するコスト、オフィス、人件費、減価償却費など)を削減するのがセオリーだけど、Jリーグの場合、選手の報酬を大幅カットすると、チームとして成り立たないと思う。
となると、やっぱり、ファンを一人でも多く増やさないといけない。それはアジアもそうだし、日本も同様。ネットビジネスでいうところのユーザを増やすことと同じだと思う。そして、ネットビジネスにおいて、ユーザを増やす方法は、親、家族、親せきなど身近なところから使ってもらって、それを友達、友達の友達、友達の友達の友達と、そのサークルを増やすこと。Jリーグもやっぱりこうやってファンを徐々に増やすしかないのかもしれない。
今から20年ほど前のJリーグ開幕当時、自分は静岡市の中学に通っていて、いたるところに地元チーム清水エスパルスの匂いがした。GKの子供がとなりの小学校にひっこしてきたり、キャプテンが蕎麦屋で蕎麦をすすっていたり。今でいう、”誰でも会えるサッカー選手”といったところか。
いまは苦しいかもしれないけど、Jリーグの次の飛躍にむけてこれからも応援していこうと思いました。