アクティビズムを飲み込む企業価値創造

10月 21st, 2024 | Posted by admin in 長橋のつぶやき

「アクティビズムを飲み込む企業価値創造」(手島直樹著、日経BP)を読みました。もう、だいぶ前ではありますが、自分もアナリストとして、上場会社をカバーすることがあり、どうやって企業価値を上げるかについて、事業会社と議論した経験がありますが、そこから、モノ言う株主であるアクティビストの立ち位置がだいぶ変わったように思います。

何が変わったか?やはり、自分がアナリストをしていたときも、アクティビストはいましたが、どちらかといえば、マイナーで、当時の雰囲気は「敵対的買収はありえない」、といった、総じてアクティビストに対してはネガティブな印象であり、どうやって強請ってくるアクティビストを上場会社は排除するかにエネルギーを注いでいたように思います。

 そこから、現在では、アクティビストに対する受容度はだいぶ変わったように思います。やはり、現状では、東証の要請もあるでしょうが、上場企業であれば株価を意識して経営すべしという考え方が少しずつ浸透してきたように思います。それは、現金など過剰に持っていて、かつ、株価対策をしていない上場会社に対して、アクティビストが自社株買い・増配を要求することは、もはや排除すべきことではなく、受け容れる土壌が育ってきたように思います。

さて、本書では、「アクティビズムを飲み込む企業価値創造」というタイトルで、アクティビスト的な考え方を「処方箋」として経営に取り組むべしと理解しました。まず、アクティビストによるアクティビズムには、良いアクティビズムと悪いアクティビズムがあり、良いアクティビズムは、アクティビストが対象とした会社について長期的な視点で会社の経営改革を促し、会社のポテンシャルを引き出すアクティビズム、一方、悪いアクティビズムは、一瞬の自社株買い・増配要求をして、それで終わってしまう「残念な」アクティビズムと定義しています。まあ、アクティビストも出資者が出資するファンドの一つであり、短期的にリターンを求める結果として、「悪い」アクティビズムなアプローチもあるので、一概に、良い悪いは定義するのは難しいかもしれないですね。

 良い悪いはさておき、アクティビズムには大きく分けて2つの手法があると指摘しています。まず一つは、グレハム流古典的なアクティビズム、ベンジャミン・グレハムはバリュー投資の概念を生み出した投資家で、バリュー投資は会社の価値と株価の間に乖離に投資をするスタイルです。グレハムのアクティビズムという点では、ある会社が時価総額を越えるレベルの社債を保有しており、その過剰資産を特別配当として株主還元を要求しました。会社の資産・資本をコントロールするキャピタル・マネジメントがグレハム流古典的なアクティビズムと指摘します。

 もう一つは、バフェット流現代アクティビズムで、資産・資本をコントロールするキャピタル・マネジメントのみならず、場合によっては取締役を派遣するなどして、経営や事業戦略まで踏み込んで価値向上を目指す、いわゆる、プライベートエクイティに近いアプローチかもしれないですね。で、株式取得から売却までのプロセスのなかで、大事なのがエンゲージメント。アクティビストとしてもリターンを上げるために会社に変革をしてもらいたい。一方で、会社としてもいろいろな事情もあり、すぐに変革できないときもあり、エンゲージメント(対話)を通じて、合意形成を目指すといったところでしょうか。

  この本の結論は、こうしたアクティビズムの手法は、キャピタル・マネジメントを含めて有効な手法であり、ターゲットになる前に「処方箋」として実践すべしと。これはそうですよね。たとえば、クロスボーダーのM&Aが盛んな業種であれば、いつ敵対的買収を提案されるかわからない、だからこそ、ターゲットになる前に、株価を上げる。これはアクティビズムの手法を反面教師として実践することでもあります。で、今年になって新NISAも始まったこともあり、株が身近になってきたように思います。そして、上場企業がアクティビズムの「処方箋」を取り入れて、株価を上げる努力をする、こうした絶え間のない努力をしている会社に投資したいですね。

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 Both comments and pings are currently closed.