さて、東京・大阪を中心とした緊急事態宣言も5月末まで延長されました。重症患者の病床逼迫などいろいろ論点があるとは思いますが、個人的には、「現状維持がベスト」という世の中のコンセンサスがこうした意思決定につながった気もしています。まあ、今回のコロナ禍は、ワクチン接種で収束が見えてきましたが、これだけに限らず、集合的心情すなわちエートスというのでしょうか、多くの事象について「現状維持がベスト」のような感じがしています。
この「現状維持がベスト」、自分の理解では、これが通用する世の中と通用しない世の中があると思います。そのなかで、先日読んだ「元禄御畳奉行の日記 尾張藩士の見た浮世」(神坂次郎著、中公新書)を思い出しました。日記の主人公である朝日文左衛門は、尾張で父親から棒給40俵の警備職を受け継ぎ、27歳で御畳奉行に昇進します。一方で、彼は、無類の記録マニアで、自身の結婚式での食事のメニュー、観た芝居の批評、江戸の世相など、27年にわたり記録しつづけます。ま、いまでいえば、ブログみたいなものですね、それが幸運なことに今日まで「鸚鵡籠中記」として残されたことで、元禄の世がどうなっていたのか、窺い知ることができます。
で、元禄の世は、武士は「サラリーマン化」していたと言います(同書p29)。そりゃそうですよね、関ヶ原合戦から80年以上経って、戦争とはほぼ縁のない世界です。人によっては、武士の命である刀を芝居小屋に忘れたとか、そんなポカもあったようです。そして、主人公である朝日文左衛門も、類に漏れずユルい生活を送っていたようです。彼の同役の御畳奉行が3人いるので、出勤は1か月に3回、それも実務は部下の足軽が取り仕切ります。なので、仕事があるとすれば、「現状維持」、悪いことをしないで、いまのままをキープするといったところでしょうか。そして、朝日文左衛門は、仕事そっちのけで、芝居、酒に熱中し、最後は酒の飲み過ぎで45歳で生涯を閉じます。
やはり、元禄の世は、「現状維持がベスト」が通じた時代だと思います、世の中も安定し、新田開発も進み、1つのポジションに3名奉行がいても、何とかできた時代です。ただ、こうしたいびつな構造がだいぶ先になりますが、江戸幕府の衰退につながったのは、歴史が証明していますよね。まあ、元禄時代と現在を単純に比較はできないと思いますが、学ぶべき点もあると思います。やはり、現在は、「現状維持がベスト」とは言えないですよね。元禄の世では武士がサラリーマン化していましたが、2021年の現在、典型的なサラリーマン、すなわち、新卒で入社して、定年まで勤め上げて、退職して、年金で暮らす、これは、なかなか難しくなっているのではないでしょうか。
「現状維持がベスト」によって、いまはいろいろ歪みが生じていると思います。たとえば、↑の話では、キャリアプランですよね、それはきちんと変えていくと思います。これは企業でも同じですよね。ビジネスの環境が変化したら、「現状維持がベスト」ではなく、変えるべき点を変える、こうしたマインドがさらに必要になってくるのではないでしょうか。