Jリーグの経営学:「Jリーグ再建計画」を読む

7月 19th, 2014 | Posted by admin in Jリーグの経営学 | 経営 | 長橋のつぶやき - (Jリーグの経営学:「Jリーグ再建計画」を読む はコメントを受け付けていません)

Jリーグの経営学

このブログでは、「Jリーグの経営学」というカテゴリで、経営の視点からJリーグの抱える問題、その取り組みについて、不定期に取り上げています。

過去のエントリは、Jリーグの経営学 2015年からのJリーグはどうなる?横浜マリノスにみるJリーグの経営学あたりです。そうした問題意識のなかで、「Jリーグ再建計画」を読みました。Jリーグの現状、これからの取り組み、についてきちんと触れており、良い本だと思います。

Jリーグを取り巻く環境

やはり、誰もが共通認識として挙げるのは、現状のJリーグを取り巻く環境は厳しいこと。

Jリーグの収入構造は、1.Jリーグ事務局と2.各J1クラブに分けることができる。Jリーグ事務局での売上は、放映権料と協賛金である。Jリーグ事務局の全収入約120億円のうち、100億円近くをこの2つが占める構造だ。(p14)

という収益構造のなかで、1994年のJリーグバブルでは66回(全264試合)をピークとして現在は7回(全306試合)、しかも、民放はなく、NHKだけ。J1,J2全試合をカバーしているスカパー!のJリーグビジネスも赤字といわれており、放映権料は現在の50億円を維持することすら危ぶまれている状況。

協賛金についても同様で、博報堂が企業向けに広告枠を販売するものの、広告枠が完売することなく、毎年12枠のうち、4~5枠売れ残るという。もちろん、それは、博報堂の持ち出しになると指摘する(p19)。

いってみれば、現状のJリーグは、1.有力選手はヨーロッパにいってしまいJリーグを観なくなった → 2.人々のJリーグへの興味が薄れてきているので、広告主はあえてJリーグに協賛金を払わない、テレビ局もJリーグを放送しても視聴率が取れるとは限らない → 3.Jリーグ事務局、クラブの収益が減少する、というネガティブスパイラルに陥っている。

自分が知っている会社でも、こういうネガティブスパイラルに陥ると結構厳しい。そして、何もしないと、どんどんネガティブスパイラルが加速し、会社であれば事業清算、倒産、売却なんてことがよくある。

Jリーグの次の一手

では、どうやってこのネガティブスパイラルから脱するか?

企業にとって、キャッシュ(お金)がないと生きていけないように、Jリーグも同様。そして、現状のリーグ方式(1リーグ制)のまま行けば、2014年からJリーグ本体に最大13億円の減収予測となるという。そこで、導入したのが、ポストシーズン制の導入。

ポストシーズン制は、簡単にいえば、1年を2シーズンに分けて、それぞれのチャンピオンがポストシーズンに優勝争いをする制度、詳細はこちら

2015年、この制度の導入で10億円程度の増収を確保できるという。

このポストシーズン制でJリーグが復活できるか、といえば、結局のところ、試合数を増やして、増収を作っているので、本質的な解決策ではないと思う。むしろ、願い目で見て、どうJリーグを活性化する戦略をつくるか?

その一つが、やはり、アジア戦略。

たとえば、イギリスのプレミアリーグの場合、イギリス国内での放送権契約は2013-2014シーズンで30億1800万ポンド(1200億円)、国外では別の契約となるも、その全体の6割を占めるのはアジアからの売上。他の欧州リーグとの契約を加えると、アジアがヨーロッパサッカーに支払う放映権料は総額で600億円といわれる。(p86) プレミアリーグもアジアマネーを狙っていて、マレーシアやタイのゴールデンタイムに合わせてプレミアリーグのキックオフをしていると。

香川のように日本からプレミアリーグにいくと、プレミアリーグを観る日本人が増えるように、アジアからJリーグに選手を誘致すればその国でJリーグを観る人が増える。ただし、難しいのは、サッカーはチームプレーなので、ビジネスだけで考えてアジア選手を獲得しても、起用するかどうかは監督次第。無理にアジア選手を獲得しても、”ビジネス先行”になってしまう可能性も否定できないと(p96)

Jリーグ時代の運営もさることながら、今後厳しさを増すのはクラブライセンス制度。クラブライセンス制度については、こちらの通り。

で、どうするか?

自分も結構いろいろな会社の経営に携わったけど、結論から言うと、Jリーグ全体あるいは各クラブ、をきちんと利益がだせる成長路線に持って行くのはかなり難易度が高いと思う。たとえば、企業の場合は、売上が落ちる局面では、固定費(売上とは関係なく発生するコスト、オフィス、人件費、減価償却費など)を削減するのがセオリーだけど、Jリーグの場合、選手の報酬を大幅カットすると、チームとして成り立たないと思う。

となると、やっぱり、ファンを一人でも多く増やさないといけない。それはアジアもそうだし、日本も同様。ネットビジネスでいうところのユーザを増やすことと同じだと思う。そして、ネットビジネスにおいて、ユーザを増やす方法は、親、家族、親せきなど身近なところから使ってもらって、それを友達、友達の友達、友達の友達の友達と、そのサークルを増やすこと。Jリーグもやっぱりこうやってファンを徐々に増やすしかないのかもしれない。

今から20年ほど前のJリーグ開幕当時、自分は静岡市の中学に通っていて、いたるところに地元チーム清水エスパルスの匂いがした。GKの子供がとなりの小学校にひっこしてきたり、キャプテンが蕎麦屋で蕎麦をすすっていたり。今でいう、”誰でも会えるサッカー選手”といったところか。

いまは苦しいかもしれないけど、Jリーグの次の飛躍にむけてこれからも応援していこうと思いました。

Jリーグの経営学 2015年からのJリーグはどうなる?

10月 26th, 2013 | Posted by admin in Jリーグの経営学 | 経営 - (Jリーグの経営学 2015年からのJリーグはどうなる? はコメントを受け付けていません)

先日投稿した横浜マリノスにみるJリーグの経営学に続いて、会社の経営戦略を普段考えている人間からビジネスとしてJリーグがどのように映るのか、第2弾です。今回は、2015年から導入されるJリーグの新しい制度についてです。

2015年から何が変わるのか?

今のJリーグ運営方式は、1年を通じて、18チームによるホーム&アウェー交互に34試合することで、最も勝ち点が多いチームが優勝。
一方、2015年からは、2015シーズン以降のJ1リーグ戦大会方式についてによれば以下、

■大会方式
18クラブによる2ステージ制リーグ戦および、スーパーステージとチャンピオンシップ。
〔リーグ戦〕
 各ステージ1回戦総当たりのリーグ戦。
両ステージでホーム&アウェイとなる
各ステージ17節、153試合(両ステージ合計306試合)
年間勝点1位のクラブはチャンピオンシップへ、各ステージ1位、2位クラブはスーパーステージに進出する

と、一番大きな変更は1ステージ制から2ステージ制に変更、そして、1.各ステージ上位2チームによるトーナメント戦スーパーステージ、2.年間勝点1位のクラブと、スーパーステージの勝利クラブによるチャンピオンシップがあわせて加わる。

2ステージ制によるインパクトは?

 Jリーグニュースによれば、

Jリーグは今回の変更によって、地上波のテレビ放送を含めた露出の拡大、全体収益の10億円以上の増加、新たなファンの獲得を想定している。

 増収10億円分の具体的な開示はないものの、少なくとも、2リーグ+スーパーステージ、チャンピオンシップによって、10億円の増収効果があると指摘。


2リーグ制は妥当な戦略か

この制度変更の目的は、いままでの1リーグ制を2リーグ制にすることで、ファンを増やす、テレビ中継の数を増やすことと思われる。
これはあえてたとえて言うならば、会社の決算に近いかもしれない。日本の上場企業の場合、年に4回決算を開示することが義務付けられている。
なので、上場企業にとっては3カ月ごとに決算を開示しなくてはいけないので大変だけど、その決算をビジネスにする会社がある。
その典型例は、証券会社。証券会社のビジネスは、いろいろあるけど、基本は投資家から株式の注文を取り次いで、売買を成立させる。そして、その出来高に応じて手数料を徴収するモデル。なので、売買高が多いとそれだけ手数料を多く徴収することができる。そして、会社の決算は、売買高を増やす意味では重要なファクター。
たとえば、ある会社が、決算で予想(コンセンサス)以上によい決算を出した場合、投資家はその流れに乗ろうということで、株を買う→売買高が増えると。

Jリーグにおいてもこのアナロジーは比較的当てはまるかもしれない。これまでのやりかたは1年に1回”決算”する方式、そして、2015年のやり方は1年に2回”決算”をするというやりかたと言えるかもしれない。そして、1年に2回決算をすることで、見せ場が増える、あるいは、”ウチのチーム、いままで、ずっと弱かったけど、次はかなり喰いこんできて、もしかしたら、優勝できるかもしれない”ということであれば、応援に俄然力が入る、それによって、離れたファンを戻すいいきっかけになるかもしれない。そういう意味では、1年に2回にすることは、妥当な戦略と言えそうだ。

2リーグ制のデメリットは?


一方、デメリットについては、サッカーキングによる記事J1が2015年より2ステージ制移行…そのメリット、デメリットとは?がよくまとまっていて、デメリットは、

1.1チームが両ステージ制覇の場合、どうするんだ問題
2.欧米のスタンダードではない問題
3.過密スケジュール問題
4.年間勝ち点1位のチームが日本一とは限らない問題

といったところだろう。

結論は?


 デメリットであげた不公平感、両ステージ制覇問題など、難しい問題はあるにせよ、2ステージ制は、決算のような”見せ場”を増やすという試みとして支持したい。
でも、結局のところ、”見せ場”が楽しめるかどうかは、やっぱり、人材、すなわち、日本に魅力的な選手がいるかどうかという点に尽きる。
企業においても、決算、業績の良しあしは、やっぱり、マネジメントと従業員によるところがほとんど、そして、よいマネジメントとよい従業員がいなければ、企業は存在しえない。
だからこそ、2015年の制度変更をきっかけに、日本のサッカーの人材の厚みが増すことを、1ファンとして強く望むところです。

横浜マリノスにみるJリーグの経営学

7月 18th, 2013 | Posted by admin in Jリーグの経営学 | 経営 - (横浜マリノスにみるJリーグの経営学 はコメントを受け付けていません)


先日、横浜マリノス 2012年度 決算をFacebookに投稿したら、とても有益なコメントをいただいたので、シェアさせていただきます。

マリノスの2012年度決算

Jリーグのクラブというフィルターなしに、1企業として横浜マリノス(株)の決算内容を見ると、危機的な内容。まず、貸借対照表(B/S)の純資産の部が、▲16.7億円と大幅マイナス。赤字が累積し、その累損赤字が資本金を上回る、いわゆる、債務超過状態。債務超過=倒産というわけではないものの、少なくとも、銀行に融資をお願いしても、銀行側は貸し倒れのリスクは高いと判断して、おカネを貸してもらえない可能性が高い。

 くわえて、損益計算書(P/L)では、営業収益(売上高)37.1億円に対して、営業費用が42.1億円、主に人件費の負担が重く、営業損失は▲5億円の赤字。キャッシュフロー計算書は、開示されていないけど、おそらく、営業キャッシュフロー(本業から得られる1年間の現金収入)も赤字、すなわち、ビジネスをすればするほど、キャッシュが流出し、赤字がかさみ、債務超過の状態に歯止めがかからない。

債務超過の背景

普通の企業として、横浜マリノスを見た場合、上記のような危機的な状況であるものの、”Jリーグのクラブ”という点からみれば、赤字になること自体はおかしいことではない。その理由は、やはり、収益機会が少ないこと。普通の企業の場合、土日を除く52週間(1年)x5日=260日間、生産・営業・販売活動をするチャンスはあるけど、Jリーグの場合は、リーグ戦34試合、カップ戦6試合、天皇杯1試合=41試合(*1)、プロ野球の場合、144試合なので、試合数にすればプロ野球の方がJリーグより3倍も多い、1試合あたりの入場料収入が同じであれば、当然、試合数の多いプロ野球の方が収入も多い。くわえて、横浜マリノスの入場者数は、自社努力によって、2012年度は増えているものの、Jリーグ全体の入場者数が減っている。というわけで、プロサッカー選手を維持するための人件費 > 入場料・広告収入、すなわち、赤字になると。

(*1)ただし、カップ戦6試合は予選リーグのみなので、決勝トーナメントで優勝すると+5試合、天皇賞についても優勝する場合は、2~7回戦までの6試合なので、最大は34 + 11 + 6 =51試合、ただし、アジア・チャンピオン・リーグに出場する場合を除く

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ただし、他クラブと横浜マリノスが違うところは、横浜マリノスの場合、経営の独立性を上げていること。横浜マリノス嘉悦朗社長へのインタビューによれば

親会社にクラブの赤字を補填してもらって、財務を表面的に穏やかに見せるようなことを僕はやりたくはない。そもそもマリノスの社長に就任したとき、日産から「赤字補填なしでやっていけるように改革してくれ」と言われていました。どこまで自力でやれるか、本気でチャレンジしたいんです。経営の透明性ですよね。

と経営の透明性を確保すべく、他のクラブが親会社からの赤字補填があるのにたいして、横浜マリノスの場合、親会社である日産からの赤字補填をしない経営方針のために、累損が膨らむ図式となっている(キャッシュフローでいえば、営業キャッシュフローは赤字だけど、財務キャッシュフローがプラスなので、フリーキャッシュフローがトントン)。

親会社への依存

 閑話休題。万年赤字のJリーグクラブが累積赤字を解消するために、親会社に頼る、この図式は、自分にはかなり見覚えがある風景。とくに、自分はIT子会社(親が大手企業で、その大手企業向け情報システムの開発・運用をする)と付き合うことがおおくて、その多くは、Jリーグクラブと同じ。すなわち、親会社の情報システムのメンテナンスが中心なので、当然、赤字が続く。親が体力があるうちは問題ないけど、いざ、体力が落ちると、外販(親以外の会社にシステム・ソリューションを販売)などの形で、”親離れ”が必要になる。でも、この”親離れ”ができない企業が結構多い。まさに、子会社にとっては、”親がなんとかしてくれる”と思っているからだ(もちろん、こういう会社だけではなくて、きちとん、親離れできているIT子会社もたくさんあります)。

クラブライセンス制という黒船

 やはり、累積赤字を親会社が補填するというのは、あまり健全でない。クラブも1企業である以上、フリーキャッシュフローをプラスにして、きちんと、税金を支払うのが企業の役割の一つだと思う。こうしたこともあり、2013年度から導入されるのが、「クラブライセンス制度」、もともと、ドイツにおいて各クラブのリーグ参加資格をチェックするために生まれた規格で、今年からJリーグクラブにも適用される。様々な規則があるけど、ここで関係するのは、財務基準。Wikiによれば、Jリーグのクラブとしてプレーするためには、以下の財務基準を満たす必要があり、満たせない場合は、下位リーグであるJFL等への降格になる可能性がある。

財務基準
・年次財務諸表(監査済み)を提出し、Jリーグの審査を受けること(A基準)。その際、3期連続の当期純損失(赤字)を計上していないこと(2012年度-2014年度の3年間以降で算定)および債務超過でないこと(2014年度から算定)が必須条件となる
・移籍金や給与の未払いが生じていないこと(A基準)

3期連続の当期純損失もあるけど、やはり、論点は、何度か指摘している債務超過でないことだろう。結論として、今回取り上げる横浜マリノスについては、親会社の補填なくして、債務超過の解消は不可能だろう。そして、親の援助なくして、黒字をキープできるクラブはかなり限られると思われる。

で、どうするか?

 こうした点を踏まえると、Jリーグクラブの経営はかなり難易度が高い。財務リストラとして、人件費をさらにカットすれば、選手のモチベーションが下がる→チームの成績が落ちる→入場料・広告収入が減る→赤字がさらに拡大、とネガティブスパイラルに陥る可能性が高い。だからといって、いつまでも親にたよれるかと言えば、IT子会社の例のように親会社がつねに体力があるとは限らない、まさに袋小路状態だ。

 で、どうするか。一つは、日本の製造業のように、海外に展開するのはあると思う。Jリーグはアジアを目指す ~生き残りをかけた600億円市場 獲得戦略~のように、アジアに進出して、広告収入を増やすのは一つの手だと思う。”アジアでサッカーは流行らない”といったら終わりで、やはり、やるしかないと思う。

おわりに

Jリーグの経営については、ずぶの素人であった自分に、有益なコメントを下さった皆様ありがとうございました、ここに御礼申し上げます。とくに、大学の研究室の先輩である土本 康生さんからは、一筋縄ではいかないJリーグの状況についてとても有益なコメントをいただきました、この場を借りて感謝の意を表します。

追記:サッカーの総試合数について、カップ戦、天皇杯、それぞれ優勝した場合のケース最大51試合を追記しました。
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